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第5話 見習い魔女と怪しい切り札

Penulis: 173号機
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-16 23:05:01

 チクタクと時計の音が部屋に響く。

 両親の帰りを待ち続けること六時間。正月特番にも飽き、森から戻ったシラーとベリーとの会話も尽き、こたつで一眠りも二眠りもしたが、両親はまだ帰らない。

「これは仕事っぽいな……」

『お腹空きましたね』

『空腹~空腹だ~』

 自分も正月早々、仕事だったけど両親もそうだったとは。こたつから出たくなかったので、ベリーに伸びてもらい冷蔵庫から食べ物を取ってもらう。

「とりあえずこれ食べよう」

 俺、シラー、ベリーで仲良く父のおつまみを盗み食いし、うるさい腹を少し黙らせる。新年水溜まり弁当じゃないのは、あれは両親と一緒に食べたいからだ。

「それにしても、結局お金は用意できなかったな。半分はお年玉で賄えるけど、あと半分か……」

 再びごろりと横になって考える。

「どうするんですか? サバトは明日でしたよね」

 シラーは魔女大の同期会をサバトと呼ぶ。意味的には間違ってないけど、ちょっと仰々しい。

 それと、大人が新年の集まりに参加するお金も用意できなんてといった視線が喧しい。

『ええ~? 僕、美味しいもの食べるの楽しみにしてるんだよ』

 ベリーは欠席なんて許さないといった雰囲気で肩を揺さぶってくる。

「あ~、もう久し振りにあれをやるしかないかなぁ……」

「それも一つの手段ですね」

『今から? 大丈夫なの? まあ僕は明日の会に参加できるならなんでもいいけど』

 ベリーの言う危険もはらんでいるが、お金がないのだから仕方がない。俺はスマホに手をかけ、白と緑のアイコンをタッチしてララインを開いた。

「あ、あの、もしもし? お久し振りです――」

 

 ◇

 時計の針が真夜中を回った頃、俺は”俺”のままで最寄りのコンビニの駐車場に突っ立っていた。一応、髪の毛と目の色だけは日本人にあわせてある。

 ベリーには顔がすっぽり隠れるくらいのコートになってもらい、防寒と余計な虫除けも頼んでいる。

 このどんな服にでもなれるベリーの能力には感謝しかない。インナー類以外の服を買わなくていいからだ。汚くはない。ベリーも毎日洗濯機という名の風呂に入ってるからな。

「遅くなってごめん。寒かったでしょ」

 斜め横に止まった車から、スラッとしているのにどこかくたびれた感じのするモブ顔のおじさんが降りてきた。俺を見て申し訳なさそうな、それでいて心底嬉しそうに笑う。

「いえ、そんなには」

「さ、乗って乗って。早く温かい所へ行こう」

 車には詳しくないが、きっとかなり良い車だろう。エスコートされるがまま黒い革張りの助手席に座ると、おじさんはサッと運転席に戻り、あっという間に発進した。

 上機嫌な様子で運転するこの人は良司さんといって、去年の春あたりに知り合った人だ。確か四十一歳だと言っていた。

 良司さんはどんどん山の方へ車を走らせていく。ポツリポツリとあった明かりがポツンに変わり、やがて闇の中を突き進むようになった。

「あれっきり連絡くれないから、もう飽きられのか思ったよ」

 山の上に光る如何わしい建物が見え始めたところで、良司さんがチラッと見てきた。車内に流れる流行りの過ぎたアップテンポの曲がしっとりした曲に変わり、何とも言えない雰囲気を作りだす。

「すみません、ちょっと忙しくて……」

「まあわざわざ僕みたいなおじさんと遊ばなくったって、大学生は楽しいことがいっぱいだもんね」

 良司さんは大学生って羨ましいなと続けた。

 まったくもって同意だ。俺も大学生が羨ましい。

『ぷぷっ、大学なんて何十年も前に卒業してるってのにね』

『まったくだ。情けないったらない』

 ベリーとシラーが茶化してくる。

「そんなことは……良司さんとじゃなきゃできないこともありますから」

 とりあえず良司さんが喜びそうなことを言っておこう。それから徐々に当たり障りのない話へと誘導していたら、これまでの暗闇が嘘のように明るい場所へ出た。

 その原因である一昔前はお洒落だっただろう煤けた門をくぐり裏手に回ると、いくつもあるガレージタイプの駐車場の一つに入って車は止まった。

 エンジンを切りシートベルトを外した良司さんは、こちらを見てニコリと微笑んだ。

「今日は何時まで大丈夫なのかな?」

 返事はしない。

 いたたまれない気持ちを誤魔化すように良司さんから視線を外して車を降りる。それからドアを閉める音をどこかぼんやり聞き流し、良司さんに手を引かれ建物の中へ入っていった……。

「どう?」

「あ、はひ……ぃいです」

 いきなり声をかけられたから上手く答えられなかった。

「そうだと思った。みどり君、ここ、大好きだもんね」

「んっ、ああ、まあ、嫌いじゃないれす」

 嘘だ。最高すぎる。

「それじゃあ、僕のも……ね?」

「ふ、ふぐっ」

 言われるがまま口を開き頬張った。喉の奥に当たったせいで少し苦しい。

『一気に頬張るからだよ』

『う、うるさいな。こういうの慣れてないんだからしょうがないだろ』

『まったく四十六歳にもなって慣れてないだなんて、恥ずかしいを通り越して気持ち悪い』

 シラーは辛辣だ。

 というか気持ち悪いは違うだろ。人それぞれ事情ってもんがある。俺はこんな隠れた場所にある大人のお店で、恋人みたいなことするとか滅多にない。慣れてなくて当然じゃないか。

「美味しいかいみどり君」

 やや息の荒くなった良司さんが見つめてくる。

「おいひいれふ」

 周りの視線や後で襲われる自己嫌悪のことも少し気になるが、お金の為と思えばおっさんにア~ンされるくらいどうでもいい。

 そう、これはパパ活――

 お金に困った俺の切り札である。いや、もはやパパ活などと言ってもいいのか分からない謎めいた行為だ。何故なら、俺は四十六歳で良司さんは四十一歳なんだから。

 中年二人で豪華な食事……そうさ、疚しいところもなければ、如何わしいこともしてない。ただ同年代の良司さんと会ってご飯をご馳走になるだけ。そのお礼で二、三万円もらう。何の問題もない。

 良司さんはその字の如く良心を司る大人。俺のハイスペックな顔と身体を見てもまったく欲情しない。ただただ、俺が美味しそうにご飯を食べるのを見ていたいらしい。

 『しっかし、四十六歳のおっさんが四十一歳のおっさんに貢がせるってどうなのこれ……』

 言うなベリー。俺だって理解してる。

『これを詐欺と言わずしてなんと言おう』

 人聞きの悪いことを言うじゃないかシラー。言っておくが俺は騙してない。良司さんが勝手に俺のことを大学生だと勘違いしてるだけだ。初めて声をかけられた時、俺はちゃんと自分の年齢を伝えた。でも何故か良司さんが信じなかった。それだけのことだ。

『そういうとこは、いっぱしの魔女だよね~。あ~、怖い怖い』

『はぁ。実力が伴えば私も苦労しなくて済むのに……』

 お洒落なセーターとそのロゴになっている二人が喧しい。無視してやる。

「ワインも飲む?」

「あ、はい。でも詳しくないんで良司さんの――」

『何を言うつもりですか!! 高いヤツです、普段飲めない高いワインにするんですよ!!』

『そうだよ! こんな高級料理奢ってもらうんだから今さら遠慮したって意味ないよ!』

 自分たちも飲むからって必死だな。でも――

「良司さんのお勧めはありますか?」

『なに考えてんだ馬鹿!』

『ふざけんな~!』

 卑しい二人は無視無視。

「喜んで。すみません、――をグラスで一つお願いします」

 良司さんの注文はとてもスマートだ。歳下なのに所作やタイミングだったりが本当に。

 このお店は開店時間が二十一時からという一風変わった超高級レストランで、何度か連れて来てもらったことがある。駐車場がガレージタイプなのは昔ラブホテルだった名残らしく、予約制のスイートな個室は今でも駐車場から直通なんだとか。

 当然だが料理はどれもこれもすこぶる美味しい。そしてお値段もすこぶる……はたして、どんぐり何十個分だろう。

「ちょっと失礼するね」

 良司さんは食事中によく席を外す。聞けば加齢による頻尿だと言っていた。人間は大変だな。明日、同期の魔女に良い薬がないか聞いてみよう。

 ちなみに、こうなると選手交代だ。ベリーとシラーが勢いよく料理を吸い込んでいく……て、おい、シラー! 恥ずかしいだの情けないだの言う割には、ベリーより食べてるじゃないか。おまけに追加注文しろだと?

 そんな勝手なこと――あ、なにあれ美味しそう。向こうのテーブルに運ばれた大きな蟹とロブスターの料理から目が離せない。

「あ、すみません……」

『『ワインも!』』

 俺は欲望に負けた。

 その後、トイレから戻った良司さんに追加注文したことを謝ると、好きなだけ食べればいいよと笑ってくれた。お勧めのワインは芳醇なイチイの樹液のように美味しくて、促されるまま何度もおかわり。八本は空けたと思う。そして最後に切り株型のケーキを食べてお店を後にした。

「美味しかったね」

「はい。御馳走様でした」

 千鳥足で車に乗り、はち切れそうなお腹を撫でる。いつもならこのタイミングでお礼をくれる良司さんだが、今日は違った。

「少しドライブしてから帰ろうか」

 良司さんは返事も聞かずエンジンをかけ、さらなる山の上へと車を走らせ始めた。

 このレストランより上にあるのは……

『『『ラブホテルだ!!!』』』

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